【日本の製造業・生産管理の立て直しの課題と改革の方向性】 第五回 需要管理の再構築とマーケット・顧客と連動した生産管理

需要管理のフレームワーク

生産をスタートさせるにあたって、需要を無視することはできません。生産管理のスタートは需要管理であり、そのためにSCMと連動するのです。

需要管理はSCM側が主ですが、工場も需要管理をする必要があります。特に、営業組織側の需要管理が弱い場合は、生産マネジメントとして需要を管理しなければなりません。

ここでは、SCMにおける需要管理の特徴をB2C、内示のあるB2B、内示のないB2Bと分けて記述します。それぞれ、以下のようなフレームワークになります。

 -B2C:SCM/需要予測と販売計画、マーケティング計画⇒生産マネジメント:製販連動

 -内示のあるB2B:SCM:需要管理、変動管理⇒生産マネジメント:製販連動

 -B2B:SCM:商談管理・パイプライン管理⇒生産マネジメント:製販連動・コンカレントエンジニアリング

あくまで需要管理はSCM側の仕事ですが、実際は、内示のあるB2Bの場合などでは営業組織が弱く、工場が代行していることがあります。自動車部品メーカーなどがその典型です。

営業がいても、工場が代行していても、需要管理は重要な業務です。今後グローバル化や部品のハイテク化や足長化、調達の困難化が進んでいきますから、需要を管理して事前に計画してリスク対応をしてくためにも、きちんと構築しなければならないのです。

B2Cにおける需要予測と販売計画、マーケティング計画と製販連動

B2Cの企業は多様ですが、基本的に自社で需要を予測し、販売計画として意思入れした計画を持って需要とします。その際、キャンペーンなどのマーケティング上の施策を考慮して需要計画に統合します。

需要予測は統計予測を使う場合もあれば、人的に予測をすることあるでしょう。どちらの方式であっても自社に適した需要予測手法を使います。必ずしも統計予測が優れているわけではありません。

過去実績などを検証して需要予測を行う場合、営業で行っても工場で行っても同じと考えて、工場で行っている企業もあります。しかし、営業側は常に市場での競争で勝つために様々な活動を行っているので、かならず営業側の特別な需要を取得し、需要予測に反映させなければなりません。

また、営業の販売計画は必ずしも当たらないので、リスク対応するために製販で連動して計画をチェックし、製品安全在庫で対応したり、生産は止めて部品在庫で対応したり、あるいは生産や調達そのものをしないで計画対応を行わないといった意思決定が必要です。

つまり、一方で営業が勝手に販売計画を立案し、他方で生産は営業が信用できないと言って勝手に独自計画をしていては、企業としての一体運営が困難です。製販連動を行うためにも、製販で計画を共有し、前回のコラムに書いたS&OPまたはPSIを実現します。

需要が安定している製品の場合、営業が需要管理をせず、工場が代行しても問題がありません。その際でも、市場の変化や最新の営業活動を把握するためにも、S&OPまたはPSIを実施します。 長期の販売計画に基づき、長期的な能力計画を実施します。足長調達品は先々の販売計画で調達し、直近の販売計画で生産計画と通常の購買計画を立案します。


内示のあるB2Bにおける需要管理、変動管理と製販連動

自動車部品のように顧客が長期・短期含めて購入予定や内示を開示してくれる場合も多いものです。今までは国内生産、国内調達が中心でしたから顧客の内示にあわせて生産・調達をしていればよかったので、こうした企業ではあまり生産管理や需要管理が発展せず、工程管理中心の管理になっています。

しかし、生産や調達がグローバルになるに従い、一国に閉じこもって生産・調達ができなくなっていくにつれて、グローバルでの生産・調達マネジメントが必要になってきました。また、製品が高度化して部品がどんどん電子化していく過程で、半導体などの足長部品が必要になり、長期計画に基づいて先行発注する必要が出てきました。

こうなると、ジャストインタイムで連携することができず、どこかの組織機能で需給調整をしたり、サプライヤーと部材の枠取りを調整するなど、リスクを検討して事前に発注したりしなければならなくなります。

例えば需要の変動を管理し、需要変動のリスクに適応した発注が必要になります。つまり、顧客から開示される購買予定などの長期計画をもとに長期需要計画を立案し、月次サイクルなどでローリングさせて変動管理を行いながら、需要変動リスクに合わせた製造能力開設とサプライヤー調整が必要になります。

顧客の確定計画で製造し、構成部材を発注していた楽な時代はとうにすぎました。需要計画にもとづいて先読みして準備し、需要計画情報をローリングさせて製造能力と部材の調達計画量を調整していきます。

営業組織が存在していない場合もありますが、その場合でも長期的な需要管理を行い、ローリングさせながら長期生産計画と長期調達計画をローリングさせるような製販統合が必要です。かつ、能力や部材のひっ迫する時はS&OPやPSIをベースに調整します。

生産管理部が明確に存在せず、現場管理を中心に工程管理を行うだけで済まそうとする製造業は、今後苦しくなって行くでしょう。先行した意思決定を行うだけの生産マネジメント体制を早急に構築しないとなりません。進捗管理や稼働管理、品質管理だけでなく、長期的な能力管理や調達管理を需要管理と連動させて、製販統合で行う生産管理を構築しつつ、トータルでの生産マネジメントを構築する必要があります。


B2Bにおける商談管理・パイプライン管理と製販連動・コンカレントエンジニアリング

B2Bは、競合が存在し、商談プロセスを経て需要が確定してきます。商談プロセスは一般に企画-引合い-仕様検討-見積もり-内示-確定受注となります。

受注後に生産しますが、繰り返し生産であれば受注後ずっと生産が続きます。この場合は、内示が提供される場合もあれば、ない場合もあります。内示があれば、上記の内示があるB2Bとなりますが、内示がない場合は、自社で予測しなければなりません。

商談管理型で重要なのは、需要管理として商談プロセスの進捗管理(ステージ管理)することと、商談の進捗にあわせて生産・調達で連動して準備をすることです。引合いから仕様検討のステージでは、生産能力準備の可否を検討しつつ、生産方式を可能な限り標準化します。見込客の仕様に引きずられすぎないように、自社にとって効率化した製造に誘導しつつ、同時に製品構成や処方構成を標準化に持っていく"仕様誘導"が必要です。

また、調達が困難な部材は営業に伝え、極力仕様検討からは外すことです。もし、要求されたら顧客に調達リスクを伝えるとともに、見積もりを高めに出すことなど、供給サイドの要望を伝えつつも商談対応をさせるように仕向けます。

標準化された仕様を推奨しますが、もしこの際、過去の商談で調達して余った部材がある場合は、その部材の使用ができないか営業と検討して"仕様誘導"します。まさにコンカレントエンジニアリングです。こうした管理は、需要管理としての商談管理と連動して、設計・生産・調達が一体でリスク対応を検討するS&OP/PSIを構築します。

一方、足長の部材は見積もり段階でのリスク状況下での先行購買発注が必要になる場合もあります。そうした場合は商談の確度、企業としてどこまでリスクを負って発注するか、といったことをS&OP/PSIの中で決定します。

リスク部材の発注は、企業の意思決定として行うべきです。こうした企業の売上や利益、資金繰りに影響する重要な判断を担当者任せでは組織ではありません。商談管理と連動したS&OP/PSIを構築し、営業・設計・生産・調達の各部門で連携して計画対応をします。

競争も厳しくなり、統合度の高い生産マネジメントが要求されるようになったのです。営業は営業で勝手に仕事をし、生産は生産、調達は調達で個別に仕事をしていては、事前にリスク低減ができません。


生産マネジメントとして在庫管理を再定義

競争が厳しくなっている環境下では、リスクを負って在庫対応をしなければならないのが現状です。いままで、日本企業は企業の意思として在庫をマネージするというよりも、担当者レベルの業務処理の結果としての在庫しか把握してきませんでした。

在庫は担当者の業務の結果であって、「なぜこんなに在庫があるのだ?」とか、「なぜ欠品しているのだ?」と騒いでいればいい時代はもう終わりました。

需要管理と連動させて、どれほどのリスクを企業として負えるのかを判断して在庫を準備しなければなりません。その際、予測や計画がどれほどの精度で実現するのか、実現する際はどれほどの誤差が見込まれて、その誤差を含めて先行的に調達、生産をするのか検討しなければなりません。

自社だけでリスクを負えないのであれば、サプライヤーとの協力関係を結んで、サプライヤーとのリスク共有下で、需要管理を緻密に行ってサプライヤー連携した需要-調達管理をしなければなりません。部材の長期取引と長期計画共有による枠取り、引き取り責任のルール化は当然ですし、キャンセル時の保障と保障すべき範囲の合意が必要です。

つまり、こうしたことは担当者の責任ではなく、企業間取引の一環として構築すべきであって、生産管理上マネジメントクラスが責任を持って取り持つ必要があるのです。

長期需要管理を行い、長期の生産・調達管理と連動させてこそ、現代の生産管理は従来の工程管理、作業管理レベルから脱して生産マネジメントとして脱皮できるのです。生産管理は企業の収益と資金繰りを握る重要なマネジメントなのですから。

第四回 生産管理のフレームワークの再構築 はこちら

【ライタープロフィール】

石川 和幸

経営コンサルタント

早稲田大学政治経済学部政治学科卒、筑波大学大学院経営学修士。能率協会コンサルティング、アンダーセン・コンサルティング(現、アクセンチュア)、日本総合研究所などを経て、サステナビリティ・コンサルティングを設立。専門は、ビジネスモデル構想、SCM構築・導入、ERP構築・導入、アウトソーシング導入、管理指標導入、プロジェクトマネジメントなど。 著書に『図解 SCMのすべてがわかる本』『図解 生産管理のすべてがわかる本』『在庫マネジメントの基本』(以上、日本実業出版社)、『思考のボトルネックを解除しよう!』、『見える化仕事術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『なぜ日本の製造業はもうからないのか』(東洋経済新報社)、『エンジニアが学ぶ物流システムの「知識」と「技術」』(翔泳社)、『アウトソーシングの正しい導入マニュアル』『図解 工場のしくみが面白いほどわかる本』(中経出版)など多数。

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